Himagine雑記

思いついたときに気ままに書く雑記帳

 豆腐屋の四季(2)

 
右下は羅漢寺ロケに同道した松下夫妻。他3枚はドラマのスチール写真

 
 初めまして……緒形拳です。
 笑って、彼は玄関に立っていた。人なつこい顔、。表にはたちまち人だかりができていた。およそスターとは縁のあろうはずもない豆腐屋の私に、ひとりの人気俳優・拳さんはこうして突然訪ねてきた。
 その幾日か前に、私の本のテレビドラマ化が、講談社と大阪の朝日放送との間にきまり、主役に望まれた緒形拳さんが快く承諾したことは、局からの手紙で知らされていた。 
 拳さんが私と同じ昭和12年生まれであること、男兄弟4人で、生活の長い辛いひもじい時期を経てきたこと、お母さん子であったこと、そのお母さんが他界されたことなど、あまりにも私と似た点が多く、横顔まで似ているようだと、その手紙は書いてきていた。安易なホームドラマの横行に絶望的になっている拳さんも、今度の役には大いに意欲を燃やしていることを、同じ手紙で私は嬉しく読んでいた。正式決定とともに、拳さんはただちにこのはるかな中津に飛んでんできたのだ。(中略)
 TBS系で全国に放送された「豆腐屋の四季」は、毎木曜夜9時半から10時15分までの45分間のテレビドラマで、1969年7月17日に始まり翌年1月8日まで24回続いて好評であった。いま思えば、随分地味で生真面目なドラマであったが、それが受け容れられる時代だったのだろう。毎回、冒頭に豆腐を造っている緒形拳さんのシーンにかぶせて〈たえまなき苦闘の歳月 生涯にただ一度の愛 おれにとってかけがえのない それは 激しい青春〉というナレーションが流れて始まるのだが、それだけでもう私は感傷的になり涙ぐんだりした。
 そのころ、私と洋子は屋根裏みたいに梁がむきだしになった二階を居室にしていて、その天井の低い部屋でなんだか世間から隠れるようにしてトランジスタテレビをを前にして座り、自分たちが演じられているドラマを観ていた。
 洋子を演じるのが川口晶、その母が淡島千景、私の父が藤原鎌足、姉を中原早苗、弟の一人をまだ新人だった林隆三が演じていた。(全集刊行記念 『松下竜一その仕事』より)
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 この本は、1998年10月1日、松下竜一その仕事展実行委員会(代表・梶原得三郎)によって編集・発行された。その6年後の2004年6月17日早朝、67才で松下竜一は逝った。そして今年、緒形拳も逝ってしまった。  今頃、似たものどうしの二人は、「豆腐屋の四季」の思い出話に浸っているのかもしれない。
  
 逝きてなほ大いなる人冷や奴