Himagine雑記

思いついたときに気ままに書く雑記帳

7月の読書

 毎月、別府市移動図書館を利用して1ヶ月に3〜5冊の本を借りて読んでいる。退職してからは読みたい本をその都度買う余裕もなく、またこれ以上本を増やさないでという連れ合いの意向もあってもっぱら公立図書館のお世話になる。新聞広告や書評欄で目にする新刊本は予約貸し出しとなるので、かなり長く待たねばならないが、いつかは読めるのだから待つしかない。7月は3冊を借りて読んだ。
     
 月村了衛著、幻冬舎発行、A5判 349ページ
―筋書き―
 東アフリカのジブチソマリアとの国境付近で、陸上自衛隊第一空挺団の精鋭部隊が墜落したヘリの捜索・救助に当たっていた。その野営地に、他部族から命をねらわれて救助を求めて逃げ込んだ氏族長の娘をかくまったことから部族抗争に巻き込まれる。絶え間なく襲ってくる敵と砂塵嵐を伴った高温風の‘ハムシン’に悩まされる中で、仲間や武器を失い殺さなければ殺されるという極限状況に追い込まれ、殺した敵の武器でやむなく自衛のため敵を殺し続ける。激戦の末、海上自衛隊のP−3C哨戒機に救助されたときには仲間を9名も失ったあとだった。生き残った3人の隊員にジブチ派遣部隊の司令は「諸君の経験したことは公式には発表されない。もちろん自衛官による戦闘行為などはいっさい無かった。隊の内外で決して他言してはならない。今回の死亡者はすべてヘリ墜落事故の救出作業中に起こったものである。」と告げる。
―読後感― 
海外派遣された自衛隊員が過酷な条件下で巻き込まれた戦闘で、自衛隊の歴史上、また隊員としても初めて武器を使って複数の敵を殺傷するという冒険小説である。敵対していたソマリアの部族とアメリカが、部族の地下に眠る巨大な石油資源を巡って動いているという政治情勢もあって自衛隊の救助部隊が遅くなったという事情も背後に描かれている。読んでいるときは、衆議院で安保関連法制を巡って与野党が侃々諤々の議論を展開している最中であった。「非戦闘地域で…」「我が国の存立を脅かす明白な…」等という議論の中に、たとえば『土漠の花』のような事例はどうなのかなどといやに現実的な空想をした。著者の月村了衛については全く知らないが、奥付によれば1963年生まれで、『機能警察』でデビュー、日本SF大賞受賞など今注目されているという。借り出して2日間で一気読みした。
     
孫崎 享・鈴木邦男著、現代書館発行、A5判 270ページ
 太平洋戦争が始まった年は1歳で終戦は5歳の時であり、草深い田舎に生まれ育った身であれば、戦争の直接の体験や記憶はない。毎年の夏は、太平洋戦争に関する本を繙くことにしている。今年は戦後70年ということで、首相談話がどうのこうのとかまびすしいが、戦争に至った過程に焦点を当てたもをもっと知りたいと思っていたら、“異色の対談”と思われるこの本に出くわした。
 日本の歴史にはいくつものエポックメイキングな出来事や激動の時代があったが、近現代ではやはり明治維新や戦争と敗戦後の復興期であろう。この書は、同い年(1943)生まれでウズベキスタンやイラン大使を歴任した元外交官の孫崎と、新右翼団体「一水会」顧問の鈴木の対談である。外務省内の「ハト派」といわれた孫崎と新右翼の鈴木とは多分進んできた道は全く異なるはずなのだが、鈴木が質問して孫崎が答えるという流れの中で、両者の主張が意外なほど共通しているのに驚く。たとえば、エール大学教授として日露戦争後の日本の軍国主義化を憂えた朝河貫一や、保守・革新の垣根を越えた独自の政治観で大陸進出に反対する論陣を張った第55代内閣総理大臣石橋湛山をその時代の希有な人材だったと評価する。世に保守と革新、右翼と左翼などと二項対立的に主義主張や人物のレッテル張りをする人がいて、それをマスコミが拡大・誇張する風潮が蔓延し、それをそのまま丸飲みする大衆がいる。自分の目で見て自分の頭で考えて判断するということの重要性を痛感するが、これがなかなか難しい。さまざまなことを考えさせてくれる本だった。うかつにも、朝河貫一著『日本の禍機』(講談社学術文庫)が本棚に眠っていた。早速目を通さねば。 
     
 半藤一利著、平凡社ライブラリー、B6判 609ページ
 半藤は歴史学者ではなく、元は文藝春秋の編集長であり、作家、随筆家である。夫人が夏目漱石の孫に当たるので、半藤一利漱石の義祖父ということになる。だからだろうか、漱石に関する著書も多い。その中の『漱石先生ぞな、もし』は新田次郎文学賞を受賞しているが、おもしろかった。半藤はなんといっても近現代史の造詣が深く、著書も多い。『日本のいちばん長い日』(文春文庫)は1945年8月14日正午から同年8月15日正午の玉音放送までの1日間の昭和天皇や政府関係者の言動を、1時間ごとに克明に記録したドキュメントである。また、『日本のいちばん長い夏』(文春新書)は帯に「当事者30人が昭和38年夏に一堂に会した前代未聞の【座談昭和史】。司会は半藤一利(当時33歳)」とあるように、政治や軍部の中枢から前線の将兵や銃後の人々まで30人が語る貴重な証言集である。小学校から大学までの教室では全く習わなかった事柄ばかりで、まさに目から鱗ものの本だった。
この『昭和史 戦後編』は、『昭和史 1926〜1945』の続編であるが、2005年1月25日から翌年1月11日まで開講した1回1時間半、17回分の“寺子屋”授業の記録である。著者自身の戦中戦後体験と該博な歴史の知識に基づいたこの授業記録は、歴史家の講義とは違ってときに講談、落語調のぬくもりがあり、おもしろい。安全保障関連法案の審議中の今、改めて戦後の占領政策改憲論議などの実体や背景を読み直してみるのも意義深い。半藤はかつてNHKの人気歴史番組『そのとき歴史が動いた』でも何度かゲスト出演しているが、ひょっとして“暦女”の生みの親ではなかろうか。