Himagine雑記

思いついたときに気ままに書く雑記帳

11月、12月の読書

眼鏡のせいか加齢のせいか、すらすら本が読めなくなった感じがする。11月中旬の移動図書館で5冊借りた本を14日にやっと読み終えた。『芸人と俳人』(又吉直樹・堀本裕樹著 集英社)、『山月庵茶会記』(葉室麟著 講談社)、『反乱兵の伝言』(三上隆著 幻冬舎)、『小説外務省』(孫崎享著 現代書館)、『落日の宴』(吉村昭著 講談社)の5冊はいずれもA5大の300ページから500ページ近い、9ポイントの文字の単行本である.
16日にはまた図書館で今年8月新刊の『鬼神の如く』(葉室麟著 新潮社)を借り出し、これは17日に読了。

小説外務省

主人公は1977年生まれの外交官、西京寺大介。2022年、彼は尖閣諸島の問題で外務次官に真っ向から反対し、外務省から追い出される瀬戸際に立たされている。年功序列エスカレーターの乗ればゆくゆくは大使まで上れるのに、おかしいことをおかしいと言えぬ外務省のなかにあって、敢然と上司に対決する。彼が生まれた石川県は加賀一向一揆の国であり、絶対的な権力に迎合するのを嫌って抵抗した百姓の反骨精神を受け継いでいるのかもしれない。加えて外務省入省後3年間勤務したロシアで得た、民主化弾圧と戦うジャーナリストたちへの共感である。彼は、上司にたてついて左遷されながらも、その赴任先でも追求の矛を収めない。日本政府、外務省の「尖閣諸島については日本固有の領土である」に対する「釣魚島は歴史的に中国領土である」という中国との対立が続いているたった今の状況の中での、これはドキュメンタリードラマである。。
この本は、元外交官の著者孫崎享が実名で登場する。孫崎は元外務大臣田中真紀子がいみじくも言った「外務省は伏魔殿だ」という外務省の実体や、アメリカ一辺倒の政府を小説という形で痛烈に批判している。現政権のアメリカ外交を見ると、以前、誰が言ったか書いたか忘れたが、「日本は米国の51番目の州だ」を思い出す。
 1972年の日中国交正常化交渉の際の周恩来総理の「今これを話すのはよくない」、1978年の日中平和友好条約批准書交換時の訒小平副総理の「こういう問題は一時棚上げしても構わない。次の世代は我々よりもっと知恵があるだろう」と言っているが、40年近くたった今の両国の人間には、まだまだ知恵が付いていないようだ。
落日の宴
     
 主人公、川路聖謨(かわじとしあきら)は豊後国日田代官所の手代の子に生まれた。いたって軽輩の身から勘定奉行筆頭まで登り詰めた幕末の政治家であるが、若い頃から、その体力、頭脳、判断力、人格とも卓越していた。江戸時代といえば厳しい身分制の社会だというイメージが強いが、幕末は鎖国政策を脅かす西欧列強の進出に臨み、幕府が家柄や序列を度外視した人材登用を積極的に押し進め、有能な幕吏を抜擢して外交を担わせた。その中の筆頭である川路は勘定方でありながら、外交官としてもロシア使節プチャーチンとの間でねばり強い交渉の結果、日露和親条約を結ぶ。外国事情に精通していた彼は、ロシア側の法外な要求に対し敢然と立ち向かい、巧みな駆け引きで日本の立場を譲ることなく外交交渉を行った。プチャーチンは後の日記で、外交交渉の敵方でもある川路の聡明さと鋭敏な感性、誠実な人格を賞讃している。外交交渉の重要な案件は幕府の意向を確認しなければならず、そのたびごとに書状を急飛脚を使わして送り、その返事を待って相手と交渉という根気と時間のかかる業務をこなしていく。安政の大地震や台風などの天変地異への迅速で適切な対応等、その体力や気力の源は、夜明け前の刀の素振り、毎日欠かさぬ速歩にあった。また公務の旅では酒好きにもかかわらず禁酒し、接待を極力避ける等、常に身辺を清らかにした。アメリカなどの開港要求や通商条約の締結に際しても、ねばり強い外交手腕によって不当な要求を退け、幕府の面目を失わないよう努力した。
以上2冊に共通するのは、真の外交とは何か、外交官の矜持とは何か、一国が独立国としての主権を維持しながら、適切な外交により他国と友好関係を保つとはどういうことなのかという、難しい領土問題を抱えた日本国家への極めて今日的な問題提起である。