Himagine雑記

思いついたときに気ままに書く雑記帳

 海鼠

今日、ニューライフプラザの定例句会があった。12月に入った今日は小春日和のぽかぽか陽気、16人の皆さんは上着を脱いで句座に。今日の兼題は海鼠である。ちょっと取っつきにくいかなと思ったが、あにはからんやおもしろい句が集まった。
私がいただいた海鼠の句は次の3句。
海鼠腸や漢の愚痴をききもして (6点) Kさん
酢海鼠やすとんと胸に落ちしもの  (3点) Kさん
海鼠噛む今は何処へもゆかぬ夫  (6点) Sさん
いずれも深みのあるうまい句だ。私の次の句にも点が集まった。
割かれては海を吐き出す海鼠かな (9点)
突き竿を刺せば傾く海鼠舟 (5点)
割かれては…は、自分で拾ってきた海鼠を自分で料理するとき、腹を割ると海水が勢いよく吹き出る様の実景である。潮を吐き出すでは当たり前すぎておもしろくないので、大きく海を吐き出すとしたのだが、この表現が利いている、という御高評をいただいた。
突き竿を…の句は、毎年12月から寒くなった頃の近くの亀川港の沿岸で見られる、これも実景を詠んだ。箱眼鏡片手に長い竿を垂直に立てて船端に身を寄せ海鼠を突いている風景を見ると、舟が転覆しないかと心配されるほど傾くのである。
          
この写真の海鼠は今年の5月1日に、関の江海浜の北に続く磯浜で拾ったものである。小なりとはいえ、生きている海鼠であり酢海鼠の味は格別であった。
ナマコ考 
Kさんの詠んだ句、海鼠腸や…の海鼠腸は海鼠(こ)の腸(わた)、つまりこのわた  と読むが、これは海鼠の腸の塩漬けのことで酒の肴として絶品である。この読み方からもわかるように、そもそも海鼠を古くは「」と言った。712年編纂の古事記に、アメノウズメが魚たちを集めて「おまえたちは神の御子に仕えるか」と聞いたところナマコだけが黙殺した。怒ったアメノウズメは小刀でナマコの口を切り裂いた。だからナマコの口は裂けていると言う神話がある。海鼠のあて字は、夜、海底の砂の上を動き回る姿が鼠に似ているからつけられたものである。江戸の昔、別府湾で海鼠とアワビがよくとれたという(『別府市誌』。海鼠は茹でたあと干したものを煎海鼠(いりこ)として長崎貿易の輸出品とした。フカヒレ、干しアワビとともに俵物三品として貴重な産物であった。煎海鼠という名前も煎った「こ」、つまり海鼠の古名「」が使われている。いま、酢海鼠として味わうものは生(ナマ)の海鼠(コ)というわけである。
今日の句会でも、初めて海鼠を食べた人は勇気があるなー 、と言う声があったが、漱石の『吾輩は猫である』の一節に「初めて海鼠を食した人物の胆力には敬服する」という部分があったと思う。
905年の延喜式にも海鼠の食用についての記述があるというから、日本人には1000年以上の昔からその味が親しまれているわけだ。
不気味な姿とえもいわれぬ味わい、海底で敵に襲われたら逃げることができず肛門から腸を噴出するというおかしな生き物であるが、古くから海鼠は冬の季語として俳句のネタになっている。
生きながらひとつに凍る海鼠かな  芭蕉
尾頭の心もとなき海鼠かな      去来
安々と海鼠のごとき子を産めり   漱石

次回の句会の兼題の提出は輪番制となっているが、今日の海鼠は私が出した題であった。おもしろい句がたくさん出され、2時間たっぷり海鼠談義に花が咲いて出題者としては面目が保てた句会だった。
右顧左眄せざる一生黒海鼠  古希漢