Himagine雑記

思いついたときに気ままに書く雑記帳

自然暦

 またまた倉嶋厚先生にご登場願いましょう。

 中国人に比べると、日本人は月日を数える技術の獲得に遅れていたようです。3世紀の中国人が日本について記した『魏志倭人伝』には、それより前の古文書の『魏略』を引用して、「その俗、正歳・四時を知らず、ただ春耕・秋収を記して年紀となすのみ」とありますから、そのころ日本人は詳しい暦を持っていなかったように思われます。
 そのような状態を、国学者本居宣長は「上つ代は、人の心も何も、ただひろく大らか」であり、「天地のおのづからの暦」を使っていたと述べています。つまり花鳥風月の変化を目安にして季節を判断していたわけで、そのような自然暦の名残は、いまでも各地に見られます。たとえば(中略)東北地方ではコブシの花を「種まき桜」、「田打ち桜」と呼んでいます。(中略)「コブシが横を向いて咲く年は大風がある」ということわざがあります。なるほど、白い肌を見せはじめたコブシやハクモクレンのつぼみは、横に傾いているものが多いですね。あれは陽の当たる南側の下部が成長し手、南にふくれあがるため、頭部は北に傾くのだそうです。だから山にはいって方角がわからなくなったら、路傍の辛夷の花の傾きを見ればよい、といわれています。つまり、コブシは「磁石の花」というわけです。花の傾きと風の強さとは、関係がないようです。もともと日本の3,4月は強風の季節なのです。これは、北に後退していく冬の風と、南から広がってくる春の風の勢力圏の境目の気候学的前線が日本の上にさしかかり、日本付近で低気圧が発達し、北風と南風が激しく衝突し合うからです。
 「春はやて」は寒冷前線のあらしです。寒冷前線が通る前は生暖かい強い南風が吹いて、砂あらしが起こり、やがて一天にわかにかきくもって雷光がきらめき雷鳴がとどろき、強い雨が降ったかと思うと西の方から青空が広がり、冷たい北風が吹きます。
春の野に霞たなびきうら悲しこの暮影(ゆうかげ)にうぐひす鳴くも  大伴家持
うらうらに照れる春日にひばりあがり情(こころ)悲しもひとりしおもへば  大伴家持 
 

「春はやて」の翌日は移動性高気圧におおわれて、うららかに晴れ上がります。コブシの花の咲く3月は、人事異動や卒業など、別れの季節です。ふと春愁を感じるひとときが誰にもあるのではないでしょうか。(『日和見の事典』倉嶋 厚・東京堂出版) 

          
          
          
 上から、コブシ、ハクモクレンモクレンです。いずれも亀川浜田町、古市で撮ったものです。

昔、『白い花の咲く頃』という歌がラジオから流れていて、いい歌だなあとすぐ真似して歌っていました。たしか岡本敦郎という歌手が歌っていたと思います。調べてみたら昭和25年の「NHKラジオ歌謡」でした。10歳の頃ですが、切ない感じが好きでよく歌っていました(おませ?)。今でも1番の歌詞は覚えています。「あの白い花」はきっとコブシかハクモクレンに違いありません。
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