Himagine雑記

思いついたときに気ままに書く雑記帳

 「激つ瀬」について考える

  
 昨夜の豊声会の定例練習の始めは、いつものように男声合唱曲『石橋の町』でした。第一章「飛沫の精」の、
白い激つ瀬よ  白い激つ瀬  ドォ ドォ ドォ ドォ…白くここにそそぐ
この歌詞の部分はわずか12小節なのですが、テナー・セカンド・バリトン・バスの4パートとも音程・リズムが取りにくく、第一章最大の難所なのです。音程・リズムが取れて歌詞をつけるときに、指揮者がいつも強調することは、詩の意味を理解しその詩の内容や情景にふさわしい表現をしなければいけないということです。そこでこの12小節の中の詩の意味、「激つ瀬」ってなんだろう,「激しい流れ」、かなと曖昧な理解をしていましたが、二つの辞典にあたってみました。
たぎつ【激つ・滾つ】 水が激しくわきかえる。
たきつせ【滝つ瀬】  急流
奈良時代にはタギツセ) (『広辞苑岩波書店
たぎつ【滾つ・激つ】 水があふれるように激しく流れる。
たぎつせ【激つ瀬】  水があふれるように激しくさかまき流れる瀬
(『国語大辞典』小学館)と二つともあまり違いません。たまたま手元の『歳時記の真実』(石 寒太著 文春新書)を読んでいると、次のような文章に出会ったので引用します。

石(いわ)ばしる垂水(たるみ)の上のさ蕨の萌えいづる春になりにけるかも 志貴皇子万葉集
 この歌は、石の上を水が急な勢いで流れている。その上を、春の蕨が、いま萌えだしたことよ、の意です。垂水は、滝のことです。滝は、もともとたきと清音ではなく、たぎと濁って発音されていました。「たぎる」の意味です。たぎるは、わきあがるとか、さかまくということです。水が急な勢いで流れること、それをたぎといったのです。(中略)平安時代以後、滝はたきと清音になり、今の滝のように垂直に落下する流れをいうようになりました。

以上で、「激つ瀬」の意味がだいたい解りましたが、作詩者の故・佐々木均太郎先生は万葉が専門の国文学者です。男声合唱団豊声会の三〇周年記念誌に、佐々木先生は次のように寄せてくれています。
「日本語の美しさを失いたくない。これが作詩上の私の今一つの心匠である。“いかずち”“激つ瀬”“たち渡る”“とよもし”など、万葉に出てくる古語を多用した。」 
難所のこの12小節の中の詩を、日本の滝百選の一つ、西椎屋の滝の豪快な姿をしっかりイメージして歌いたいものです。
滝落ちて群青世界とどろけり 水原秋桜子