Himagine雑記

思いついたときに気ままに書く雑記帳

 「坂の上の雲」の子規

NHKの「坂の上の雲」が昨年の第一部に続き、第二部が始まった。明治の激動期を駆け抜けた軍人秋山好古、真之兄弟と俳人正岡子規の交友を中心にして、日清、日露戦争期の明治を描いた大型ドラマである。
 俳諧から俳句を独立させ、俳句や短歌の革新運動に若き情熱を注いだ子規は、宿痾の結核カリエスに冒された。病苦にさいなまれながらも強靱な精神力で書き続けた『病牀六尺』の127回目の最終回が新聞「日本」に掲載された9月18日の午後、全身浮腫の末期症状で死期を悟った子規は、妹の律らに助けられてかろうじて筆を持ち、画板に張った唐紙に辞世の句を書きつけた。
           
              (国立国会図書館蔵)
絶筆三句(右から)
をととひのへちまの水も取らざりき
糸瓜咲ひて痰のつまりし仏かな
痰一斗糸瓜の水も間に合はず

この場面の詳細を子規門下の河東碧梧桐『子規言行録』の「君が絶筆」で見る。

碧梧桐が筆を持たせると、二度墨継ぎをしながら中央に「糸瓜咲て」の句を記し、横を向いて痰をし、痰を拭きとった。もはや傍の痰壺をとる気力もなくなった子規は、次に「痰一斗」の句を書き、「間にあはず」で墨をついだ。四、五分後、「をとひのへちまの」と記し、「ひ」の上に「と」と書いて「水も」「取らざりき」と書き流して筆を投げすてた。そのため、白い寝床の上にすこしばかりの墨の痕がついた。その間、全く沈黙、静寂のままだった。

この夜19日午前1時、子規は35歳の生涯を閉じた。
秋山兄弟が軍人として輝いていく姿を見て喜ぶとともに、子規は病気の悪化によって取り残されていく。親友、真之のアメリカ留学の際に子規が詠んだ君を送りて思ふことあり蚊帳に泣く はその間の子規の心情が痛いほど胸に響く。
さて、子規を演じる香川照之 は「龍馬伝 」では三菱財閥岩崎弥太郎役で、ぎらぎらとした演技を見せたが、病気に苦しむ子規の役はまたなかなかのものである。
今週の日曜日(12日)はいよいよ子規の最期の場面だそうだが、碧梧桐の「君が絶筆」の内容に沿った脚本でドラマが展開するのだろうか。このシーンは見逃せない。 
※本ブログ「Himagineの日記」2009/09/21 に「糸瓜忌」で既述。