Himagine雑記

思いついたときに気ままに書く雑記帳

山吹の花

   
オウバイレンギョウなど枝垂れて咲く黄色の花が多い春ですが、このヤマブキも今が盛りです。一重と八重がありますが、散歩途中で見たこれは八重咲きのヤマブキです。ヤマブキについてはよく知られた話がありますね。
 江戸城を築いた太田道灌が鷹狩りに行ったとき、急に雨に降られてとある一軒の粗末な家に立ち寄って蓑を貸してくれと頼みます。ところがその家の少女に一本の山吹の枝を差し出されました。「七重八重花は咲けども山吹のみのひとつだになきぞ悲しき」という古歌によって、我が家は貧乏していてお貸しする蓑一つさえありません、と婉曲に断られます。道灌はその意味が解らず、それ以後発奮して和歌の勉強に勤しんだという話です。さてここでクイズ!少女が差し出した山吹は一重の花だったでしょうか、八重咲だったでしょうか?
 ヒントは和歌の中に隠されています。「…みのひとつだに…」の「みの」は、「実の」と「蓑」をかけています。つまり、この山吹は「実が一つもない」、すなわち「実が生らない」種類の、八重咲の山吹なのでした。一重咲きの山吹には実が生ります。
ヤマブキはいわゆる山吹色で鮮やかな金色なので、昔から小判の隠語になりました。江戸時代、河内山宗俊寛永寺の僧に化けて「相成るべくは山吹のお茶を一服所望す」とか何とかいって袖の下(山吹色の小判)を要求しました。イヤイヤ平成の今日も、千葉市長が公共事業の受注を巡って便宜を図った土建業者から、100万両の山吹色の小判を貰ったという容疑で逮捕されました。河内山宗俊さんの末裔はまだあちこちにはびこってるようですね。ヤマブキの金色は目もくらむ輝きです。
山吹や酒断ちの日のつづきをり 秋元不死男
秋元さんの目には、ヤマブキの色が酒の色に見えたんでしょうかねえ。我が身の内のピロリ菌と格闘中のため同じく酒断ちしている者なれば、山吹の例句の中でこの句にすぐ目がとまった次第です。
下世話な小判や酒の連想より、山吹の姿そのものを静かに詠った次の短歌で気持ちよく締めましょう。
木立みな青葉となれり山吹の八重咲く花のをぐらきに照る                                       窪田空穂