芸術の春の3月
3月は1週間の間に3つのステージで音楽を楽しんだ。
(その1)オペラ 青の洞門 3月6日 中津文化会館大ホール
このオペラの原作は菊池寛の『恩讐の彼方へ』であるが、人を殺めた罪滅ぼしと衆生済度のために、今の中津市本耶馬渓町青の「青の洞門」を僧禅海(オペラでは了海)が20年余の年月をかけて掘削した物語である。オペラは2002年に現地の競秀峰の下で初演、以後13年ぶりに再演されたのだが、初演は観に行けなかった。高校3年間の耶馬渓鉄道で通学、朝な夕な窓外に眺めた青の洞門である。1度は観ないとバチがあたるので、このいわば“地物オペラ”を見逃すわけにはいかない。“地物”たる所以は、メインキャストの主人公市九郎(了海)を糸永起也、市九郎を父の敵と追う実之助を山本裕基、その妻お弓を野村高子などすべて県内で活動中の歌手であるほか、オーケストラ、合唱も「おおいたオペラカンパニー」や地元合唱団たちの出演であるからだ。メインキャストの3人は、かつて大分第九で歌っていたときにパート指導者としてお世話になった方たちでもある。糸永氏とは彼がバスのソリストとして第九のステージで共演したこともある実力者だ。それぞれ名唱、名演であったが、オーケストラ特にピアノが強すぎて、アリアがかき消されてしまう部分が諸処あったのが惜しかった。専用のオケピットでないので仕方ないのかもしれないが…。
(その2)川中美幸コンサート 3月9日 iichikoグランシアタ
所属する男声合唱団で今まで縁の無かったジャンルの歌の世界なので、テレビの歌謡番組をあまり観ていなかったが、昨年の演奏会ではじめて、「有楽町で逢いましょう」「潮来笠」「東京ナイト・クラブ」「いつでも夢を」等の吉田正作品を歌って、演歌や歌謡曲等の男声合唱もお客さんに喜んでもらえるということがわかった。そういう時に、以前、大阪勤務時代に川中美幸の番組をプロデュースして以来縁ができたという倅から、彼女の大分のステージで歌と絶妙のトークを楽しんで欲しいと、S席チケット2枚が送られてきた。二人でかぶりつきの座席で開演を待った。ご当地ソング「豊後水道」に始まる「ふたり酒」「二輪草」他昭和歌謡ポップスメドレーなど、28曲を熱唱、華麗なダンスあり爆笑トークあり、笑って泣いて感動してのステージだった。先日の朝日新聞の「おやじの背中」では、幼少の時からの苦労話を語っていたが、ステージでは今も元気な90歳になる母親のことだけを語っていた。2時間超のステージでとても還暦を迎えた歌手とは思えないスタミナとバイタリティーを見せたが、いかに客席を楽しませるかという姿勢が貫かれ、さすがにプロの歌い手だと思わせられた。終演後、マネージャーさんに楽屋口まで導かれ、川中さんと一緒の記念写真まで撮らせていただいた。
(その3)オペレッタ「二人はランプに照らされて」
「瓜生島]より合唱曲「波の底には」>
3月13日 別府ビーコンプラザ フィルハーモニアホール
第一部 「瓜生島」より合唱曲「波の底には」 ビーコンプラザ依嘱のオリジナルというこの作品は、3カ年プロジェクトの初年度の試みとして演奏された「波の底に」という合唱曲である。瓜生島は文禄5年(1596)7月に起こった慶長豊後地震で沈んだ沖の浜を基にしたものであるが、瓜生島物語は学校で教材化されて、別府市民ならよく聞かされている伝説である。今日の公演は神の怒りに触れて沈んだ島の音楽劇のプロローグとして、別府市民オペレッタ合唱団29人によって歌われた。この合唱団には、男声合唱団豊声会の団友N氏、西部俳句会の句友M氏も所属し今回も出演していた。以前オペレッタ合唱団に誘われたこともあったが即、ご遠慮申し上げた。小学校の学芸会でぶんぶく茶釜の和尚さん役でいやな思いをして以来、歌うだけならいいが、演技や衣装をまとうことにはいまだトラウマが消えないからである。
第二部 オペレッタ 「二人はランプに照らされて」 オッフェンバック作曲というこのオペレッタは初めて聞いた。この曲は有名な「地獄のオルフェ」(天国と地獄)の初演に先立つこと1年に初演されたということだが、日本ではあまり演奏の機会が無く、この公演も西日本初という。主演のギヨーに武田直之、デニーズに里中トヨコというキャストであるが、いいバリトンとソプラノを聴かせる。物語は他愛ない恋物語だが、コミカルな歌の数々が日本語の歌詞で歌われてオペレッタらしい楽しさを味わうことができた。
1週間の間に3回の客席体験で感じたことの一つは、「青の洞門」も「瓜生島」も大分県内の物語を大分県内の出演者が ステージで表現活動をしたということの意義。もう一つは川中美幸の熱演のステージを通じて、アマチュア合唱団としても舞台に立つ限りは決して自己満足に終わらず、客席に音楽の感動をいかに届けるかということの大切を教わったことである。