Himagine雑記

思いついたときに気ままに書く雑記帳

 燕の子

  

 
 近所のどこかの軒下で育ったらしい子燕が2羽、電線でしきりに羽根を伸ばしたり羽繕いをしたり忙しい。親が飛んで来ると、いずれも黄色い菱形の口をいっぱいに開けて餌をねだっている。この時期の子燕は身体の大きさは見た目にはほとんど親と変わらないが、まだ自分では餌はとれない。しばらくは、親燕の給餌を待つほかないのだろう。
 巣を離れまず電線へ燕の子 渓石 子どもの頃、毎年土間の上の同じところに燕が巣をかけた。近くの田んぼの泥を咥えてきては、梁にまるで鏝絵師のように嘴で器用に塗りつけていく。巣作りが完成しやがて卵が生まれ、孵化すると、数羽の雛へ夫婦燕が忙しく餌を運ぶ様子が見られた。親燕がいつでも通れるように、玄関の引き戸は、一日中、10センチばかり開けておいた。親燕が餌を持ち帰るたびに、5,6羽の雛が一斉に黄色い菱形の口を大きく開けて餌をねだった。その情景を見ながら、親鳥はどの雛にも平等に餌を与えているのだろうか、と不安に思ったりもした。こんな平和な風景が突然恐怖の底におとされることがあった。温めている卵や 孵化したばかりの雛をヤータロー(アオダオショウ)が襲撃するのだ。ヤータローは、昔の藁葺きの農家には必ず住みついていたものだ。米俵などを囓る鼠を呑んでくれるから農家にとっては甚だ具合はいいのだが、燕一家にとっては天敵である。けたたましい親燕の鳴き声で、あっ、蛇が来てるな、と察知し、長い棒を持ってきて巣を襲っているヤータローを叩き落とすと、既にヤツの腹が大きくふくらんでいたものだ。少年は、燕の仇を討ったり、とヤータローをコノヤローとばかり滅多打ちにして殺し、山国川に放り込んだのである。

 巣作りの泥の供給源である水田が減ったのか、環境の変化によるものか、この頃昔ほどは燕を見かけなくなったような気がする。
 “ツチクウテ、ムシクウテアトナニクウカ、チュー” 燕の鳴き声の聞きなしである。